街に流れる童謡は女の子の節句にちなんだもの。
3月3日といえば女の子のためのイベントが当たり前だった。
でも今は違う。
「ありがとうございましたー!」
小さな花束を手に店を出ると外で待つ蔵馬は正面の店を見ていた。
「お雛様欲しいの?」
「え?」
あたしを見下ろす蔵馬は意味を理解して苦笑する。
「見てただけだよ。それ桃の花?」
「うん。可愛いから買っちゃった」
笑顔を向けて手を差し出せば蔵馬が握り返してくれた。
「あのね、蔵馬が美味しいって言ってくれたドライフルーツのケーキ作ったんだ」
「本当?嬉しいな」
「誕生日なのに生クリーム乗ってないけど・・・」
「俺が食べたいものだから気にしないでいいんだよ」
誕生日に食事して、蔵馬に似合いそうだと目をつけていたセーターを買いに行った。
一人暮らしのあたしの部屋に帰りながら、聴こえるひな祭りの童謡。
霊界でもひな祭りやってたっけ。
「子供の頃はさ、からかわれてたんだ。女の子の日に生まれたって」
「じゃあ子供の日に生まれた女の子も一緒じゃない」
「そうだよな。面白いな」
「ねー」
なんにも特別なことはなくて、でも大切な日で。
なんだか、いっぱい抱きしめたい気分。
部屋に入ってエアコンのスイッチを入れる。
「寒かったね・・・?」
コートを脱いで振り返った途端にぎゅうっと包まれた。
「そんなに寒い?」
「寒い」
更に抱きしめる力が強くなる。
「なに飲む?暖まるよ」
「いい。俺がやるから花、飾っておいで」
離れるとなんだかぽっかり穴があいたような気分になる。
「早くすませて戻っておいで」
顔に出てたのか蔵馬が笑いながらキッチンへと入って行く。
恥ずかしくて頬が熱くなるのが分かった。
コーヒーの香りが強くなる。
準備がまだ出来ずにキッチンから出て来ない蔵馬に後ろから抱きついた。
「なに?もう終わったの?」
「終わった」
「どうしたの?」
どうしたのって訊かれてもこっちが訊きたい。
「誕生日おめでとう」
何度繰り返したか分からない台詞。
「蔵馬がいて良かった」
「え?なにそれ」
蔵馬が人間界に来なかったら、きっと3月3日はただのひな祭りでしかなかった。
蔵馬がいるから一緒にいる日々が大切に思える。
一緒にいれる時間が大切なの。
「大好き・・・・・・」
うっかり浮かんだ涙を蔵馬の背中で拭いて笑った。
「今日は誕生日だからいっぱい甘えていいよ?」
「へぇ。でも甘えたいのはでしょう?」
「蔵馬なの!」
肩を震わせて笑う蔵馬にもっとくっつく。
「コーヒーが運べないから」
「・・・離れてもいいの?」
「・・・・・・・・・」
諦めた様にため息を吐いてトレイに乗せて慎重に運ぶ姿がおかしくて抱きついたまま笑う。
「が少しだけ離れてくれたらさっさと進めるんだけど?」
「いや」
「・・・覚えてろ」
なんとかテーブルにトレイを置くとあたしの手を簡単にほどいて座ってしまった。
「ほら早く来る」
手を引っ張って乗せられた先は蔵馬の膝の上。
「あのー、さすがにこれは恥ずかしい」
正面にある彼の顔を直視出来ない。
「甘えていいんだよね?」
「うん・・・」
「いやって言っても離しませんから」
そう言って笑う蔵馬が意地悪に見えた。
「蔵馬」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「何度もありがとう」
「こんな大事な日に・・・一緒にいてくれてありがとう」
少しだけ驚いた顔をする蔵馬に彼の誕生日だというのにお願い事をした。
「来年も一緒に祝わせてほしいな」
蔵馬が生まれた日を祝いたい。感謝したい。
「来年だけじゃいやだ」
頬に触れた指の感触に顔を上げる。
「この先ずっと。だろ?」
この先の誕生日にはちゃんとあたしの場所、つくってくれるの?
一緒にいてくれるのね?
また涙が出る。
「ちゃんと、一緒にいてくれないと誕生日の意味なんてない。がいるから特別な日になるんだよ?」
「分かった。いやって言っても一緒にいるから」
抱きつくといやになるわけないって笑いながら抱きしめてくれた。
Happy Birthday!
〜〜fin〜〜